例えば中学校教諭の場合、1週間の校内勤務時間は63時間18分。これに1週間の持ち帰り業務4時間 (0:20×5 + 1:10×2 = 4:00)
を加えると、67時間18分です。1週間の法定労働時間40時間を27時間18分も超過しています。1か月 (4週間) の超過勤務は109時間12分です。小学校教諭の場合も同様に計算すると1か月 (4週間) の超過勤務は88時間24分です。
さて、一般に「過労死ライン」と呼ばれているものがあります。これは、労働者が脳疾患や心臓疾患で死亡した場合の労災認定について厚生労働省が定めた次の基準がもとになっています。 |
厚労省「脳・心臓疾患の労災認定 過労死と労災保険」パンフより引用 |
この基準をもとに、急激に超過勤務が増えた場合には月100時間、定常的に超過勤務が続いている場合には月80時間を「過労死ライン」と呼んでいるのです。1か月の超過勤務は小学校教諭が88時間24分、中学校教諭が109時間12分ですから、どちらも過労死ラインを超えています。
この結論はあくまで平均値で計算したものです。では実際に過労死ラインを超えている教諭はどれくらいいるのでしょうか。
1か月(4週間)の法定労働時間を160時間、超勤の過労死ラインを80時間とすると、1か月の勤務が240時間、1週間の勤務が60時間を定常的に超えている人は過労死ライン越えとなります。実際の校内勤務時間の分布は次のグラフのとおりですから、小学校教諭の34%、中学校教諭の58%が過労死ラインを超えています。 |
1週間の校内勤務時間 教員勤務実態調査(平成28年)の結果より引用 |
さらに持ち帰り業務も超勤時間の一部と考えて、60時間から平均の持ち帰り業務時間を引いてみると、1週間の校内勤務時間の過労死ラインが出てきます。結果は、小学校教諭で55時間19分、中学校教諭で56時間00分です。上のグラフからこれを超えている人の割合を推定すると、小学校教諭の56%、中学校教諭の71%が過労死ラインを超えているという結果になります。
厚労省と文科省が委託して行った調査によると、法定の休憩時間を「あまり取れない・全く取れない」教員は、小中ともに約80%、忙しい時期には、12時間を超えて勤務している教員が小学校で66%、中学校で75%、14時間を超える教員も小学校で20%、中学校で30%、教頭では、14時間越えが48%、16時間越えも8%という結果が出ています。(この段落の数値は、委託調査報告書P.124のデータから無回答を除いて算出しました)
このような長時間勤務の結果、明らかになっただけでも、教員の過労死は10年間で63人(毎日新聞調べ)。これは氷山の一角と言われています。文科省は教員の過労死について調査も把握もしていないのです。また、精神疾患による休職者数は、1年間で5,077人(平成29年文科省調査)。精神的不調に陥りながらも休職には至らず、通院や療休・年休で何とか頑張っている教員や、それもできずに苦しんでいる教員は数知れずと言うべきでしょう。
|
文科省資料より作成 2001〜2010 2009〜2013 2014〜2018 |
このように過酷すぎる勤務状態ですが、教員に求められる職務はさらに複雑化・困難化しつつあります。新指導要領による授業改革、教育内容の量的・質的拡充、学習評価の改善・充実、道徳教育の充実、小学校での外国語活動、小学校における総授業時数の増加、いじめ・暴力行為への対応、特別な支援を必要とする児童生徒の増加、不登校の増加、それぞれに対応するための計画書や報告書の作成・提出、などなど。よりよく仕事をしようとする生真面目な教員にとっては、やってもやっても終わらない仕事が次々に押し寄せてくる感じではないでしょうか。
このような実情を反映してか、教員希望者は年々減少中です。教員採用試験の倍率は、かつては十数倍が普通で、数十倍を超えるような県もありましたが、今は中学で3倍程度、小学校では2倍にも達しない県もあるくらいです。
教員の長時間労働や過酷な勤務実態が過労死や精神疾患を招き、若者にとって教職そのものが一生の仕事としての魅力を失いつつあるとすれば、日本の未来にとって緊急の事態だと言わざるを得ません。 |
参考資料 外部のサイトが別タブで開きます。
“ブラック職員室”の実態
日本の教員はなぜ世界一多忙なのか?−強制される「自主的な活動」
忙しい学校 どうする |