働き方改革 2   
   

 1 なぜ働き方改革が必要か
 2 民間の働き方改革
 3 教員の労働条件
 4 教員の労働実態
 5 世界の教員との比較
 6 学校における働き方改革
 7 働き方改革推進のための振り返り用紙
 8 だんざ出版からのささやかな提案
 9 給特法改正・業務量管理指針
10 給特法改正・年間変形労働時間制
※ 学校における働き方改革に関する流れ

  世の中で働き方改革がすすめられている一方、教員の労働条件や労働実態はどうなっているのでしょうか。そして、学校における働き方改革は進んでいるのでしょうか。

 
     
   3 教員の労働条件    
   

  教員の労働時間や賃金についての労働条件は給特法教員超勤令によって決められています。その要点をまとめると次のとおりです。

   (1) 時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しない。
   (2) 給料月額の4%に相当する教職調整額を支給する。
   (3) 超勤四項目以外に超過勤務を命じない。超勤四項目とは次のとおり。
      @生徒の実習に関する業務
      A学校行事に関する業務
      B職員会議に関する業務
      C非常災害等のやむを得ない場合の業務

  では教職調整額が4%とされている根拠は何なのでしょうか。それは1966 (昭和41) 年に当時の文部省が実施した「教員勤務状況調査」の結果、小中学校の教員の1週間の平均超過勤務が1時間48分だったことによります。当時は学校週6日制だったので、1日平均18分ということです。この時間を元に超過勤務手当を計算したところ、給料月額の4%にあたる額だったのです。この点についての文科省による説明はこちらで見ることができます。
  要するに、
全員が18分だけ残業するとみなして、その分を教職調整額として支給し、それ以上はなし、ということが法律で決まったわけです。
  法的には、教員には超勤四項目以外命じられた時間外勤務というものは存在しない、時間外に残って仕事をしているのは、教員が自主的・自発的にやっていること、だから時間外手当は支給しない、ということです。サービス残業の法制化と言えるでしょう。
  ただし、時間外手当がない代わりに、実は特殊勤務手当というものがあります。ありますが、業務内容が限定されていて、事務的な仕事や授業の準備などは、勤務時間外にいくらやっても特殊勤務手当はつきません。修学旅行、部活動などに業務が限られていて、しかもその額は法で定められた最低賃金を下回るようなものです。例えば、A市では中学校の教員が勤務時間外に部活動を指導した場合の特殊勤務手当は次のように決められています。
        
  時給で計算すると、例えば休日に3時間部活をやると時給900円、平日の時間外に3時間やると時給450円、平日でも休日でも2時間なら時給わずか175円等という額になります。A市を含むB県では最低賃金が983円(2019年7月現在)ですから、どの場合でもこれを下回っています。一般の労働者なら時間外割増賃金(25%、35%、あるいは50%増し)が支払われるところですが、教員の場合には最低賃金にも満たない額です。このような手当てで勤務時間外に働かせることが許されているのは、給特法が存在するからです。
  給特法を見直そうという声は各方面から上がっていて、中央教育審議会でも議論を進めています。しかし多くの見直し案が少なからぬ予算措置を必要とすることから、議論はあまり進んできませんでした。現在、中央教育審議会では、学校における働き方改革を推進して教員の長時間勤務を是正しつつ、当面は1年単位の変形労働時間制の導入で対応し、給特法等の見直しは中長期的な課題として必要に応じて検討していくという考えになってきているようです。 
※ 2019年12月4日、1年単位の変形労働時間制の適用を可能とする給特法の改正案が可決成立しました。給特法の改正についてはこちらをご覧ください。
  この問題を考えるための参考資料を3つ挙げておきます。
     @ 「定額働かせ放題」の業界を知っていますか?
         2ページ目に給特法の問題についての議論があります。
     A 学校における働き方改革   教員の多忙化の現状から考える勤務時間制度の在り方
         76ページの4から、給特法の概要・問題点・見直しの方向などがまとめてあります。
     B 中央教育審議会 学校における働き方改革に関する方策についての最終答申
         第6章で、給特法を含めた教員の勤務時間制度の改革の方向を提示しています。
 

 
     
    4 教員の労働実態     
   

  教員の長時間勤務や過労死が社会問題化し、文科省は2016(平成28)年に教員勤務実態調査を実施しました。その結果、教員が置かれている過酷な状況が改めて明らかになりました。教員の1週間の校内勤務時間及び持ち帰り業務時間は下の表のとおりです。



教員勤務実態調査(平成28年)の結果より引用
 
   

  例えば中学校教諭の場合、1週間の校内勤務時間は63時間18分。これに1週間の持ち帰り業務4時間 (0:20×5 + 1:10×2 = 4:00) を加えると、67時間18分です。1週間の法定労働時間40時間を27時間18分も超過しています。1か月 (4週間) の超過勤務は109時間12分です。小学校教諭の場合も同様に計算すると1か月 (4週間) の超過勤務は88時間24分です。
  さて、一般に「過労死ライン」と呼ばれているものがあります。これは、労働者が脳疾患や心臓疾患で死亡した場合の労災認定について厚生労働省が定めた次の基準がもとになっています。


厚労省「脳・心臓疾患の労災認定 過労死と労災保険」パンフより引用

  この基準をもとに、急激に超過勤務が増えた場合には月100時間、定常的に超過勤務が続いている場合には月80時間を「過労死ライン」と呼んでいるのです。1か月の超過勤務は小学校教諭が88時間24分、中学校教諭が109時間12分ですから、どちらも過労死ラインを超えています。
  この結論はあくまで平均値で計算したものです。では実際に過労死ラインを超えている教諭はどれくらいいるのでしょうか。
  1か月(4週間)の法定労働時間を160時間、超勤の過労死ラインを80時間とすると、1か月の勤務が240時間、1週間の勤務が60時間を定常的に超えている人は過労死ライン越えとなります。実際の校内勤務時間の分布は次のグラフのとおりですから、小学校教諭の34%、中学校教諭の58%が過労死ラインを超えています。


1週間の校内勤務時間  教員勤務実態調査(平成28年)の結果より引用

  さらに持ち帰り業務も超勤時間の一部と考えて、60時間から平均の持ち帰り業務時間を引いてみると、1週間の校内勤務時間の過労死ラインが出てきます。結果は、小学校教諭で55時間19分、中学校教諭で56時間00分です。上のグラフからこれを超えている人の割合を推定すると、小学校教諭の56%、中学校教諭の71%が過労死ラインを超えているという結果になります。
  厚労省と文科省が委託して行った調査によると、
法定の休憩時間を「あまり取れない・全く取れない」教員は、小中ともに約80%、忙しい時期には、12時間を超えて勤務している教員が小学校で66%、中学校で75%、14時間を超える教員も小学校で20%、中学校で30%、教頭では、14時間越えが48%、16時間越えも8%という結果が出ています。(この段落の数値は、委託調査報告書P.124のデータから無回答を除いて算出しました)
  このような長時間勤務の結果、明らかになっただけでも、
教員の過労死は10年間で63人(毎日新聞調べ)。これは氷山の一角と言われています。文科省は教員の過労死について調査も把握もしていないのです。また、精神疾患による休職者数は、1年間で5,077人(平成29年文科省調査)。精神的不調に陥りながらも休職には至らず、通院や療休・年休で何とか頑張っている教員や、それもできずに苦しんでいる教員は数知れずと言うべきでしょう。

 
文科省資料より作成   2001〜2010  2009〜2013  2014〜2018

  このように過酷すぎる勤務状態ですが、教員に求められる職務はさらに複雑化・困難化しつつあります。新指導要領による授業改革、教育内容の量的・質的拡充、学習評価の改善・充実、道徳教育の充実、小学校での外国語活動、小学校における総授業時数の増加、いじめ・暴力行為への対応、特別な支援を必要とする児童生徒の増加、不登校の増加、それぞれに対応するための計画書や報告書の作成・提出、などなど。よりよく仕事をしようとする生真面目な教員にとっては、やってもやっても終わらない仕事が次々に押し寄せてくる感じではないでしょうか。
  このような実情を反映してか、教員希望者は年々減少中です。教員採用試験の倍率は、かつては十数倍が普通で、数十倍を超えるような県もありましたが、今は中学で3倍程度、小学校では2倍にも達しない県もあるくらいです。
  教員の長時間労働や過酷な勤務実態が過労死や精神疾患を招き、若者にとって教職そのものが一生の仕事としての魅力を失いつつあるとすれば、日本の未来にとって緊急の事態だと言わざるを得ません。

参考資料 外部のサイトが別タブで開きます。
“ブラック職員室”の実態
日本の教員はなぜ世界一多忙なのか?−強制される「自主的な活動」
忙しい学校  どうする

 
   

  次に、日本の教員の長時間勤務等の実態を世界の教員と比較して、その解決に必要な視点を探っていきたいと思います。

 
           
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