働き方改革 3   
         

 1 なぜ働き方改革が必要か
 2 民間の働き方改革
 3 教員の労働条件
 4 教員の労働実態
 5 世界の教員との比較
 6 学校における働き方改革
 7 働き方改革推進のための振り返り用紙
 8 だんざ出版からのささやかな提案
 9 給特法改正・業務量管理指針
10 給特法改正・年間変形労働時間制
※ 学校における働き方改革に関する流れ

  日本の教員の長時間勤務の実態などを世界の教員と比較して、その要因や是正するために必要な視点などを探っていきたいと思います。
  また、文科省が進めようとしている「学校における働き方改革」についてもまとめてみました。学校における働き方改革が進展し、全ての教員の皆さんがワークライフバランスのとれた豊かな教職生活を送ることができますよう、お祈りします。

 
     
   5 世界の教員との比較      
   

  2018年にOECDが実施した国際教員指導環境調査(TALIS2018)などの結果を使って、日本と世界の教員の状況を比較してみましょう。
  まず1週間の勤務時間は右のグラフのとおりで、日本が56時間で参加国中最長です。参加48か国の平均38.3時間を18時間近く上回っています。日本の教員は世界一忙しいのです。

一週間の勤務時間

  勤務時間が世界一長いからと言って、授業の持ち時間やその準備にかかる時間が長いわけではありません。調査に参加した48か国の平均より短いのです。授業をやっている時間だけで見ると48か国の中でも短い方から10番目で、授業の持ち時間は少ない方なのです。

一週間の授業時間
一週間の部活動の時間
一週間の事務的仕事の時間

  では日本の教員の勤務時間を長くしている要因は何なのでしょうか。さまざまな要因がありますが、最も目立つのは、左の2つのグラフからも明らかなように、部活動の7.5時間(参加48か国平均1.9時間)と事務仕事の5.6時間(参加48か国平均2.7時間)です。この2つに手をつけなければ、教員の長時間労働の是正はありえないでしょう。
  特に部活動は2位以下を大きく引き離して、突出しています。部活動は学習指導要領では、「生徒の自主的・自発的な参加によって行われる教育課程外の学校教育活動」という微妙な位置づけになってはいますが、「学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるように留意すること」と規定されていて、教員にとっては顧問として部活動の指導に多くの時間を割くことが、事実上義務のようになっています。

  しかも法律上は、文科省も教育委員会も校長も、勤務時間外に「部活動を指導しなさい」と教員に命じたことは一度もないということになっているのです。校長が「〇〇部の顧問を引き受けてくれませんか」とお願いしたら、教員が自主的・自発的に引き受けて、勤務時間を超えて、休日も返上して、過労死ラインを超えてまで、熱心に指導しているというのが、法律上の解釈なのです。

※上の4つのグラフはOECDのTALIS2018のデータから作成しました。教員の勤務状況についてのデータは同資料のTable I.2.27に掲載されています。

  日本の教員が長時間勤務を余儀なくされている要因の1つは、教員や支援職員の数が足りていないからだという主張は以前からありました。それは、教育予算の少なさによるものです。学校教育への公的支出及び私的負担の対GDP比を諸外国と比較したのが右のグラフです。日本の学校教育への公的支出はOECD調査に参加した国の中で最低レベルです。大きな私的負担と合計しても下から9番目なのです。

  教育予算が少なく、教員の数が抑えられれば、一クラスの児童生徒数は必然的に多くなります。小中学校の1クラスの児童生徒数を比較したのが右のグラフです。日本はOECD調査に参加した国の中で最多レベルです。小学校で1クラスに25人以上の児童がいるのは、参加国中で日本、イスラエル、チリ、イギリスの4か国だけ、中学校で1クラスに30人以上の生徒がいるのは、参加国中で日本、コスタリカ、コロンビアの3か国だけです。
  教育予算を拡充して教員数を増やし、クラス規模を縮小することが、学校の働き方改革を後押しするという声は説得力を増しています。

学校教育への支出
      




一クラスの児童生徒数

     ※上の2つのグラフはOECDのEducation at a Glance 2018の資料から作成しました。
     ※文科省によるTALIS2018のポイントのまとめはこちらで見ることができます。

  国際比較によっても、教育予算の拡充、それによる教員の増員、クラス規模の縮小、部活動指導員の配置など部活動負担への対策、事務的仕事の整理・削減・IT活用などによる省力化、事務的仕事への支援スタッフの配置などの必要性が浮かび上がってきます。

 
     
    6 学校における働き方改革     
   

  OECDの国際教員指導環境調査(TALIS)や文科省の教員勤務実態調査等で教員の過酷な長時間労働が改めて明らかになったことを受けて、2017(平成29)年、文科省は中央教育審議会に対して「学校における働き方改革に関する方策」について諮問しました。そして、諮問から2年後の2019(平成31)年、中央教育審議会から最終答申が提出されました。
  この間、国会では働き方改革関連法が成立し、文科省も「学校現場における業務の適正化に向けて」や「運動部活動総合ガイドライン」を発して、学校における働き方改革を推進し始めていました。また、中央教育審議会の中間まとめなどを受けて、最終答申と同じ日に「勤務時間上限ガイドライン」を発しました。この他にもいくつもの提言や通知を矢継ぎ早に発していて、学校における働き方改革を急ピッチで進めようとしています。この間の提言や通知を詳しくお調べになりたい方は、こちらをご覧ください。

  一連の提言や通知で示されている主な内容は、概ね次のとおりです。

学校における働き方改革の目指すもの
   ・  教師の業務負担の軽減を図り、限られた時間の中で、教師の専門性を生かす。
   ・  授業改善のための時間や児童生徒等に接する時間を確保する。
   ・  教師の日々の生活の質や教職人生を豊かにすることで、教師の人間性や創造性を高める。
   ・  これらを通して、効果的な教育活動を持続的に行うことのできる状況を作り出す。
勤務時間について
   ・  超勤4項目に限定せず、在校等時間を定義。これを実際の勤務時間とする。
   ・

 超過勤務の上限の目安は月45時間以内、年360時間以内。(特別な場合には別に定めあり)
  ※特別な場合を含め、民間の上限と同じ。ただし民間は法的上限、教員は目安

   ・  教育委員会は、教師の勤務時間の上限に関する方針等を策定し、必要な取組を実施
   ・  在校等時間をICTの活用やタイムカード等により客観的に計測・記録
   ・  教員の勤務時間についての教員、家庭、地域の意識改革
 3 業務改善 
   ・  業務全体の見直し・効率化・精選、部分的な外部委託の活用
   ・  必要性の低い業務は思い切って廃止
   ・  教育効果のある業務の中からも優先順位をつけて取捨選択
   ・

 業務を仕分けして、教員の業務を明確化。事務職員、保護者、ボランティア、教育委員会等が担えるものは移行

業務仕分け 「学校における働き方改革に関する取り組みの徹底について」の概要から引用

   ・   事務職員が教育委員会や一般行政部局、地域等との渉外窓口の一つであることを明確化
   ・ 

 勤務時間外及び休日の業務を発生させないため、留守番電話を設置
            (緊急時の受付電話は教育委員会事務局に設置)

   ・   総合型校務支援システムの整備
   ・   研修の精選・出張の縮減
   ・ 

 スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、スクールロイヤー、ICT支援員、特別支援教育支援員、部活動指導員、業務改善アドバイザーなど、専門人材の積極的な配置・派遣・参画

   ・   教育委員会等から学校への調査・報告・依頼・指示等の精選・合理化
部活動の負担軽減
   ・  学期中は週当たり2日(平日に1日、休業日に1日)以上の休養日を設定
   ・  長期休業中は学期中に準じた扱いを行うとともに、長期休養(オフシーズン)を設定
   ・  1日の活動時間は、長くとも平日は2時間程度、休業日は3時間程度
   ・ 

 中体連・中文連等の大会規定の見直し
       (複数校による合同チームの参加、学校と連携した地域クラブチームの参加など)

   ・   大会参加や練習試合の精選・適正化
   ・   部活動指導員の配置の促進
その他
   ・  働き方改革についての教師自身の深い共通理解と意識改革・チームとしての実行の決意
   ・

 働き方改革について家庭や地域の理解・協力を得るための働きかけ
 【家庭や地域への働きかけに役立ちそうな政府広報 平成31年(2019年)4月23日号

  これらの提言や通知で示された内容を徹底的に実施することができれば、教員の過酷な長時間労働はかなりの程度是正される可能性があります。どこまで実施できるかは、教育委員会、教員自身、教員以外の関係職員、保護者、地域の人々など、すべての関係者の意識改革と努力にかかっています。
  PDCAサイクルをしっかり生かしながら、学校における働き方改革を推し進めてください。そして、教員の長時間勤務を是正して効果的な教育活動を持続的に行うことのできる状況を作り出してください。教員の皆さんの働き方は、子どもたちを通して、未来の働き方に大きな影響を与えるのですから。

  学校における働き方改革については、株式会社ワーク・ライフバランスが力を入れてコンサルティングを進めています。同社の次のページをぜひご一読ください。

中央官庁・学校で働き方改革が進まない理由
  なぜ学校で働き方改革を進めることが重要なのか、なぜ学校で働き方改革が進みにくいのか、明快に論じています。

全国に先駆けて取り組みをスタートさせた静岡県教育委員会の事例
  日本とイギリスの教員の比較、平日にリフレッシュできていることの大切さ、静岡県の4つの小中学校の取り組み事例などを紹介しています。

岡山県の取り組みに学ぶ、効果的な「学校の働き方改革」
  教職員自らが改善点を提案、PTA役員・地域住民・教員合同の会議、学校行事を教育課程外の行事に移行、などの事例が紹介されています。

海外の事例や他省庁との連携を視野に入れた、新たな「部活動」の発想を提言
  部活動問題への新たな提言、岐阜県の部活動問題への取り組みなどを紹介し、「教育現場が変われば日本は確実に変わります。全国の教育関係者の皆様、ぜひこのタイミングで声を上げていきましょう」と訴えています。

 
 
 
   7 働き方改革推進のための振り返り用紙   
   

  下の表のマークをクリックすると、振り返り用紙が各ファイル形式でダウンロードされます。部活動に関する振り返りは内容項目が多く、重要と考えられますので、独立した別の用紙としました。学校の実情に応じた内容に加除・改良してご利用ください。中学校週案に掲載した振り返り用紙は、一般的内容と部活動関係の内容を1枚にまとめた簡潔版です。

 
   

 働き方改革推進のための振り返り用紙 A4版

 部活動負担軽減のための振り返り用紙 A4版

 中学校週案に掲載した振り返り用紙 A4版

 
   

  次のページでは、学校における働き方改革を進めるためのだんざ出版からのささやかな提案をご紹介します。都道府県または指定都市の教育委員会への提案です。

 
       
       
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